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高松高等裁判所 昭和37年(ラ)26号 決定 1963年3月15日

抗告人 中原和雄(仮名) 外一名

相手方兼亡斉田マツ承継人 斉田隆一(仮名) 外一名

相手方 青山貞美(仮名) 外一名

主文

一、原審判を取消す。

二、別紙財産目録記載の一、ないし六の財産全部を相手方斉田隆一、同斉田明子の共有(持分各二分の一)とする。

三、相手方斉田隆一、同斉田明子は現物の分割に代え抗告人両名および、相手方青山貞美、同山田良子に対し

斉田隆一においてそれぞれ  九万七、一六五円

斉田明子においてそれぞれ 一八万一、〇三二円

ずつをいずれも本決定確定の日から一年内に持参又は送金して支払え。

四、本件調停ならびに審判に要した費用および本件抗告費用はそれを合算して、その九分の五を相手方斉田隆一、同斉田明子の負担とし、その余を抗告人両名および相手方青山貞美、同山田良子の負担とする。

理由

一、抗告人等は「原審判を取消しさらに相当の遺産分割を求める」と主張した。その理由は別紙理由のとおりであるから、左にこれを判断する。

(1)  遺産の範囲とその評価について。

本件記録および徳島家庭裁判所昭和三五年(家イ)第五一一号遺産分割調停事件記録によると亡斉田洋一の遺産としては抗告人等主張のうち別紙財産目録一ないし六に記載の財産があつたことが認められる。

そしてその評価額は一、二については各鑑定人の評価を平均し、四ないし六については当審における各審等の結果により、それぞれ右目録掲記のとおりであると認めるのが相当である。抗告人等主張の家財道具、山田良子に対する貸金についてはこれを認めるに充分な資料がない。また農地の評価についても原審における鑑定の結果を不当とすべき根拠はない。

したがつて抗告人等の主張は別紙目録三の3、4、四ないし六に関する範囲において理由があり、原審判は相続財産のうちそれらを遺脱した違法がある。

(2)  特別受益について。

亡斉田マツ(相続人の一人であつたが昭和三七年一〇月一日死亡)および湯川太郎の各供述によれば抗告人等主張の土地は斉田マツが自己の資金で買入れたものであつて被相続人から贈与を受けたものではないことが認められる。また相手方斉田明子、同青山貞美、同山田良子の各供述によると同人等は被相続人から生前贈与を受けていないことが認められる。(かりに抗告人主張の学校教育費の生前贈与があつたとしてもその額を特定しがたい。)したがつて抗告人等の主張は採用できない。

(3)  遺産分割の方法について。

抗告人中原和雄は農地の分割を希望しているが同人は現に一町一反の耕地を有している上、その住所が本件農地からは二里も離れていることその他相手方斉田隆一、同斉田明子が被相続人の生前から共に本件農地を耕作していた等の事情を考えるとき右抗告人に本件農地を分割することは相当でない。また抗告人斉田強はその経歴、職業からも農地を保有するのは適当でない。したがつて抗告人等の主張は採用しない。

二、本件記録によると、被相続人は別紙財産目録七に掲げる1、2、3の農地を所有者大木豊彦から借り受け小作していたが右大木との間で3の農地を返還しその代償として1、2の農地の贈与を受けることを約し、そのための許可の申請をしていたところ、事故により急死したので、農地委員会の意向もあつて相続人全員が協議の上右小作権のみについて斉田明子を相続人と定めその名で右と同じ許可申請をして許可を受けた上3の農地を右大木豊彦に返還し1、2の農地を同人から相手方斉田明子に贈与を受けたことが認められる。したがつて被相続人は死亡当時右三筆の農地の小作権を有しそれが相続財産となるものと解せられ、しかもその小作権の価額は右1、2の農地の価額と等しいと認めるのが相当である。そして右1、2の農地の価格は原審における鑑定の結果を平均すると合計三三万三、九六六円となる。(なお2の農地に関する沢口鑑定人の評価額一〇万〇、五〇〇円とあるは反当単価を考えると一〇万五、〇〇〇円の誤記と認められる)

三、被相続人の妻斉田マツは一旦相続人となつた後昭和三七年一〇月一日死亡したところ、同人の相続分は遺言によつて相手方斉田隆一、同斉田明子に二分の一ずつ遺贈せられたことが認められる。したがつて相続人は現在右相手方両名(その相続分は各一八分の五)と抗告人両名および相手方青山貞美、同山田良子(その相続分は各一八分の二)となる。

四、当裁判所は前記一の(3)に説明したことおよび相手方青山貞美、山田良子の経歴、希望を併せ考え前認定の相続財産のうち別紙財産目録一ないし六に記載された財産全部を相手方齊田隆一、同齊田明子の共有(持分は各二分の一)と定め同人等から他の相続人に対し現物分割にかえ各相続分に相当する債務を負担させるべきものと認める。別紙財産目録七の小作権は既に相手方齊田明子が分割の協議の結果相続しているので本件遺産分割の対象とはならない。しかしその価格は相続分の算定に加えられる。なお相続財産から支払われる葬儀費用六万〇、五七七円(実際の費用七万一、四七七円から香典一万〇、九〇〇円を差引いたもの)は相手方齊田隆一、同齊田明子が立替支出しているので各相続分に応じ右債務から差引かれることになる。したがつてその支払うべき金額の計算は左のとおりになる。

相続財産の総額二五六万四、三五二円

(別紙財産目録一ないし七の総和)

相手方齊田隆一、同齊田明子の各相続分(右の一八分の五) 七一万二、三二〇円

相手方斉田隆一が現実に相続する財産の総額(別紙財産目録一ないし六の価額を加えたものの半分) 一一一万四、四四三円

同人が負担すべき債務総額(同人が相続した財産が相続分をこえる額) 四〇万二、一二三円

同人が支払うべき債務一人分(右の四分の一) 一〇万〇、五三〇円

葬儀費用のうち同人の立替分(六万〇、五七七円の一八分の一に当る三、三六五円)を右の金額から差引いた残額 九万七、一六五円

相手方斉田明子が現実に相続した財産の総額(相手方斉田隆一の相続した分を相続財産の総額から引いたもの、その中には小作権の価格を含んでいる) 一四四万九、九〇九円

同人が負担すべき債務の総額(同人が相続した財産が相続分をこえる額) 七三万七、五八九円

同人が支払うべき債務一人分(右の四分の一) 一八万四、三九七円

右のうち前記葬儀費用立替分を引いた残額 一八万一、〇三二円

つまり、相手方斉田隆一はそれぞれ九万七、一六五円ずつ相手方斉田明子はそれぞれ一八万一、〇三二円ずつを他の四名に支払う債務を負担することとなる。

五、以上のとおり原審判は相続財産の範囲について一部脱漏があるのでこれを取消し、当裁判所において審判に代わる裁判をすることとし、費用の負担について非訟事件手続法第二六条、第二七条、第二九条、民事訴訟法第九三条、第九六条を準用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺進 裁判官 水上東作 裁判官 石井玄)

別紙

財産目録

一、土地

所在

地目

反別

反畝歩

評価額

徳島市矢三町東張○○○番

三・一〇五

一〇五万三、三三三

〃 〃 〃  ○○○番

一・六一二

〃 田宮町宮前○○○○番の○

〇・三〇六

七万八、一三三

〃 〃 〃  〃    の○

〇・一〇三

〃 矢三町堂屋敷○○○番の○

一・四二八

五二万九、九三三

小計

一六六万一、三九九

二、家屋

徳島市矢三町堂屋敷○○○番地上

家屋番号矢三町○○番

坪合勺

評価額

木造瓦葺二階建居宅一棟

建坪二九・二五

三二万三、九一六

二階一三・五・

木造瓦葺平家建居宅一棟

建坪四・〇

木造瓦葺物置一棟

〃 一九・二・五

六万三、一六六

小計

三八万七、〇八二

三、預貯金

1 徳島市加茂農業協同組合に対する普通預金 その金額 七、〇一一

2 普通郵便貯金                〃    九二四

3 郵便定期預金                〃  七、〇〇〇

4 四国銀行佐古支店預金            〃    四七〇

小計 一万五、四〇五

四、畜牛一頭            その評価額 五万〇、〇〇〇

五、農機具

評価額

1 一馬力モーター

二台

一万〇、〇〇〇

2 発動機

一台

一万〇、〇〇〇

3 キャップ線

一〇〇米

一万〇、〇〇〇

4 わらきり機

一台

一万〇、〇〇〇

5 荷車

一台

一万〇、〇〇〇

6 水揚ポンプ

二台

二万〇、〇〇〇

7 米貯蔵タンク

四個

八、〇〇〇

8 脱穀機

一台

七、〇〇〇

小計

八万五、〇〇〇

六、保有米麦

評価額

米     五俵

麦     三俵

}三万〇、〇〇〇

七、小作権

1 徳島市矢三町堂屋敷○○○番

七畝二四歩

評価額

三三万五、四六六

2 〃  〃  〃○○○番の○

三畝

3 〃  〃  〃○○○番の○

六畝

以上

その評価額合計

二五六万四、三五二

うち一ないし六の合計

二二二万八、八八六

別紙

抗告の理由

一、遺産の範囲

本件遺産の範囲即ち審判の対象は遺産の分割請求であつて申立人は主文第一項掲記の不動産及び預金の分割請求を申立てたのであり預金は申立書記載の如く

1 加茂農協預金  七、〇一一円

郵便貯金         七〇〇円

同定期預金      七、〇〇〇円

四国銀行佐古支店預金   三八一円

の預金につき其分割申立をしているのである。

而も申立人斉田マツ、同斉田隆一、同斉田明子は現に相続財産を占有する相続人であり相続財産の占有者から遺産分割の申立として其遺産中郵便定期預金七、〇〇〇円の相続財産が現存し以て申立を為したるに拘らず原審判は之を遺産の分割審判を為さない違法がある。

二、各相続人の特別受益として認むべきものはないと是又其審判を為さないのである従つて抗告人等は意外に思うておるのである。相手方である抗告人二名は徳島家庭裁判所に対して本件遺産分割につき昭和三五年(家イ)第五一一号を以て遺産の目的物件を表示して調停申立を提起したのである。

其調停申立の遺産の範囲を同申立書記載の如く主文記載の不動産の外に

1 畜牛一頭  時価      七万円

2 家屋動産  時価     一〇万円

3 農機具一式 時価 一九五、〇〇〇円

4 米麦保有量及現在量

5 貯金及現金 被相続人生存中山田良子に対する

貸金  一〇〇万円

を遺産の対象として申立を為し更に申立人斉田マツに対しては

徳島市矢三町堂屋敷○○○の○ 畑  一六〇三歩

同        ○○○の○ 宅地 一九九坪五

同          ○の○ 田  九一三歩

を大正二年九月二日被相続人より贈与を受けているので民法九〇三条第二項によつて相続分の価額を超えるからその相続分を受けることができない旨並に明子、貞美、良子は何れも高等女学校を卒業し更に婚姻に際して嫁入道具等当時一、〇〇〇円位の贈与あり是又民法九〇三条による特別受益がある旨主張して数回調停期日に出頭して口頭あるいは書面を提出して以て数回其陳述をしたのであるにも拘らず之を除外して分割したのであり既に申立人等は民法第九〇三条によりその遺産取得の権利なきものであります。

又遺産分割の方法についても抗告人中原和雄は現に農業に従事して現物分割を要望し農業の経験についても最適格者であるのに拘らず原審判は公平妥当なる審判でないのである。

尚抗告人から提出した三五年(家イ)第五一一号は昭和三七年一月一一日之を取下しておるのであるが抗告人両名は本件が審判に移行した為に裁判所の勧告によつて調停申立を取下したのであつて抗告人は当然遺産分割の対象として審判あるべきものと信じて取下したのである。

此の場合家庭裁判所は当然調査判断して以てその遺産の範囲として先決問題を独自の立場で審判すべきものであつて家事審判は個人の尊厳と両性の本質的平等を基本とし家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とし遺産分割の家事審判事件において相続財産の範囲に争のある場合も家庭裁判は相続の範囲につき審理した上分割の審判をしなければならないのでありその範囲は確定せずして為したる本件審判は違法でありますから以上抗告する次第であります。

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